みなさん、こんにちは!ジャズの歴史とジャンルをわかりやすく解説するシリーズ、第6回の主役は、モダンジャズを最も洗練された芸術へと引き上げた知的革命、『モード・ジャズ(Modal Jazz)』です!
前回ご紹介した「ハード・バップ」は、黒人特有のファンキーなノリと哀愁、そしてカチッと決まったルール(コード進行)の中で熱く燃え上がる、モダンジャズのひとつの完成形でした。
しかし、1950年代の終わり、モダンジャズのすべての流行を作ってきたあの“帝王”マイルス・デイヴィスは、こう呟いたのです。
「コード(和音)のルールが細かすぎて、みんな決まりきったアドリブしか吹いていない。そんな退屈なハメコミ細工はもう止めだ。もっと自由で、どこまでも広がっていくような新しいジャズをやろう」
そうして生まれたのが、音楽の仕組みを根本から変えてしまった『モード・ジャズ』です。 難しそうに聞こえるかもしれませんが、実は「究極の引き算が生んだ、めちゃくちゃクールでお洒落な大人のジャズ」なんですよ。その深すぎる世界へ、一緒に飛び込んでみましょう!
モード・ジャズってどんな音楽?3つの知的な特徴
それまでのジャズとは一線を画す、浮遊感のある美しい響き。その特徴を3つに凝縮して解説します。
① ルールを「たった2つ」に減らした究極の引き算
これまでのジャズは、1曲の中でコード(和音)が目まぐるしく「ド・ミ・ソ♪ シ・レ・ファ♪」と変わるため、演奏者はそのレールの上を必死に走る必要がありました。 モード・ジャズでは、そのコードを極限まで減らし、極端な曲(『So What』など)では1曲の中で使うコードをたったの2つだけにしてしまいました。レールをなくし、広大なグラウンドを musician に与えたのです。
② どこへ行くかわからない「浮遊感と大人の色気」
決まったコード進行がないため、メロディが「分かりやすく着地」しません。 まるで、夜の宇宙空間をふわふわと漂っているかのような、あるいは静かな夜のプールに溶け込んでいくかのような、独特のミステリアスな浮遊感が生まれます。これが、たまらなくお洒落でクールな大人の雰囲気を醸し出すのです。
③ 演奏者の「本物のセンス」が試される裸のステージ
ルールがなくなったということは、裏を返せば「ごまかしが効かない」ということです。 次にどんな音を吹くかは、100%演奏者のセンスに委ねられます。だからこそ、マイルスやジョン・コルトレーンといった、歴史上の本物の天才たちの「むき出しの魂」が、一番美しい形でレコードに刻まれることになりました。
これを聴けば一瞬で知的な大人!モード・ジャズの絶対名盤4選
お部屋の明かりを少し落として、深い静寂とともにじっくりと味わいたい至高の4枚を厳選しました。
① 人類が創り出したモダンジャズの最高到達点
- アーティスト名: マイルス・デイヴィス(Miles Davis)
- アルバム名: 『Kind of Blue』
シリーズ第14弾の『So What』でもご紹介した、全世界で一番売れた歴史的超大名盤です。 マイルスが提唱した「モード・ジャズ」というコンセプトが、完璧な形で花開いた奇跡の瞬間が収められています。ピアノのビル・エヴァンスが敷き詰める静かで知的な絨毯の上を、マイルスのトランペットが、コルトレーンのサックスが、これ以上ないほど美しく、切なく泳ぎ回ります。ジャズを聴くなら一生付き合うことになる、人類の宝物のような1枚です。
② モードの宇宙で野生の魂が咆哮する、もう一つの頂点
- アーティスト名: ジョン・コルトレーン(John Coltrane)
- アルバム名: 『My Favorite Things』
マイルスのバンドでモード・ジャズを学んだサックスの巨人ジョン・コルトレーンが、その可能性をさらに極限まで押し広げた大ヒット盤です。 映画『サウンド・オブ・ミュージック』の有名な可愛い童謡を、コルトレーンはモードの魔法を使って、まるでアフリカやインドの呪術的なお祭りのような、妖しくて、激しくて、お腹の底から熱くなる13分間の大スペクタクルへと変身させました。彼のサックスが奏でる、どこまでも終わらない圧倒的なアドリブの波に溺れてみてください。
③ 新時代のピアノの美学が覚醒した、爽快なる名盤
- アーティスト名: ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)
- アルバム名: 『Maiden Voyage(処女航海)』
当時、マイルスのバンドに抜擢された若き天才ピアニスト、ハービー・ハンコックが25歳の若さで創り上げた、海をテーマにした知的で美しいコンセプトアルバムです。 1曲目の『処女航海』を聴いた瞬間、目の前に誰もいない静かな朝の海が広がるような、素晴らしい透明感に包まれます。ハード・バップの泥臭さは一切なく、どこまでも洗練された新世代のモード・ジャズを体験できる、非常に聴きやすい大傑作です。
④ 哀愁のアルトサックスが魅せる、クールな夜のドライブ感
- アーティスト名: ジャッキー・マクリーン(Jackie McLean)
- アルバム名: 『One Step Beyond』
それまで熱いハード・バップの象徴だったサックス奏者ジャッキー・マクリーンが、「俺も新しい時代(モード)へ一歩踏み出すぜ!」と宣言した、エッジの効いた名盤です。 彼の持ち味である、胸をギュッと締め付けるような「ひりつく哀愁の音色」が、モードの自由な世界と出会ったことで、最高にスリリングで格好いい都会的な夜の音楽に化けました。ちょっと尖った、ニヒルな格好良さを求めている夜に抜群にハマる1枚です。
まとめ:モード・ジャズは「自由という名の、最高の芸術」
今回は、ジャズの音楽理論を宇宙的な広がりへと進化させた『モード・ジャズ』をご紹介しました。
- 時代背景: 1950年代末、ガチガチのコード進行に退屈したマイルスが発明
- スタイル: コードを極限まで減らし、音の「浮遊感」と「スケール感」で魅せる
- ここがシビれる: 演奏者のセンスがむき出しになる、知的でクールな大人の夜の音楽
一見、難解に思えるモード・ジャズですが、頭で聴くのではなく、ただその美しい音の波に身を委ねてみてください。いつものお部屋が、驚くほど洗練された美術館のような空間に変わるはずです。
さて、マイルスが開いたこの「自由なモードの扉」によって、ジャズマンたちはかつてない自由を手に入れました。しかし、人間の欲望は止まりません。1960年代、若いミュージシャンたちはついにこう叫び始めます。 「コードを2つに減らしただけでもまだ不自由だ!楽譜も、リズムも、音階も、すべてのルールを完全にぶっ壊して、本当の『自由』になろうぜ!!」
次回は、ついにジャズの歴史の臨界点突破。誰も彼らを止められない、衝撃の爆発エネルギー世界『フリー・ジャズ(Free Jazz)』について解説します。心臓の弱い方はご注意を(笑)。お楽しみに!

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